第4回 海外でつくる日本の味
2009.03.10 Tuesday | by chikyumaruz
◆椰子ノ木やほい (米国・ミシガン州在住)
1997年家族でサモアに移住。南太平洋の小さな島国で4年間のシンプルライフを経験。2001年より米国ミシガン州在住。日本を離れてから10年が経つ。
◆郷らむなほみ(カナダ・オンタリオ州在住)
海外転勤族の夫に帯同赴任して、タイ3年、香港2年、エジプト1年半、サウジアラビア4年半、という滞在歴のある長期在外日本人。現在は、カナダのオタワ郊外に在住。
◆増本昌子(カナダ・モントリオール在住)
24歳の娘、88歳の母と3つ上の亭主との4人暮らしで7年が過ぎた。
進行役
◆ツムトーベル由起江(ドイツ・キール)
1999年よりドイツ在住。ドイツ人の夫、7歳の長男、5歳の長女、2歳の次女とともにドイツ北部キール近郊の村に住む。
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第4回の地球丸座談会、テーマは「海外でつくる日本の味」です。海外在住10年目にしていまもなお日本の味を再現するため苦労しているツムトーベル由起江が、皆さんの格闘ぶり(?)をおききしました。
【ツムトーベル】
みなさん海外滞在がかなり長いようですが、日本の味が恋しくなるとき食べたくなるのはどんな献立ですか?
【増本】
私にとっての日本の味はしいたけと春雨のお吸い物です。高校生になるまでの私はとてもひ弱で、床についていることのほうが多かったのですが、そういう時に母が作ってくれた美味しいお吸い物が、懐かしく、また大切な思い出です。幸いなことにモントリオールでは椎茸も春雨も簡単に入手できます。母のお吸い物は多分、鶏がらのだしに昆布とかつおぶしで、味と栄養を加味されていたと思います。今は娘が風邪を引いたときに第一に欲しがるものになっています。私にとって、大切な母の味、日本の味です。
【やほい】
我が家は、食べ盛りの息子3人を含む、家族全員が日本人ですので、基本的には和食中心の食生活です。家族の面々は、気分にまかせて具体的なリクエストをすることもありますが、調理するのは私ですから、適当に要求をあしらいながら(?)手に入る食材で、安くて美味しくて健康!!という食を工夫しています。
「うな丼が食べたい」と言われても、「鰻」が手に入りませんから、そんなリクエストは無視です(笑)。でも、納豆が食べたいといわれれば、「大豆」は常時、ストックしているのでお手製納豆を作ります。
乾燥大豆を吸水させ、圧力鍋で煮て、それに納豆菌を混ぜて、温度管理をしながら発酵に丸1日かかり、さらにできた納豆を冷蔵庫でねかせるので、出来上がるのは食べたいと思ってから翌々日ぐらいになってしまいますが、これが作ってみるとけっこう楽しいです。
発酵中の温度管理は、あれこれ試した結果、大きめの発泡スチロールの箱にお湯を入れたペットボトルを数本入れて調節。保温しながら発酵状況を観察しているうちに、納豆ちゃんがかわいくさえ思えてきます(笑)。何しろ発酵食品は生きていますから、毎回出来栄えが違って、ネバネバ加減で一喜一憂です。
【郷らむ】
私は特に、日本の味が恋しくなる……というのはないのですが、ごくたまに、風邪で寝込んだ時とか、お粥と紀州のはちみつ梅干しが欲しいくらいでしょうか。
ウチは夫がトンカツ好きで、サウジにいる時はすごく食べたい時があって、隣国バーレーンまで行ったこともあります。片道5時間位はかかるんですが、バーレーンの首都マナーマには和食の店が何軒かあり、豚肉もビールもあるんですよ。
【ツムトーベル】
サウジアラビアは宗教的な意味でいろんな制約があるそうですね。日本でごく普通に購入できたものができない、などというご苦労があったと思いますが、そのあたりはいかがですか?
【郷らむ】
サウジアラビアは、敬虔なイスラム教の国ですから、酒類、豚肉は入手できません。みりんにも日本酒が入っていますからサウジでは買えませんし、外国で 買って持ち込むこともできません。
インスタント麺なども、ポークエキスが含まれているものは、サウジでは販売されていないんですよ。同じ会社の同じ商品でも、です。ベーコンもチャーシューもない暮らしなんて、何とかを入れないコーヒーみたい?なにもそこまで……という徹底ぶりですが、そこがイスラム教徒のこだわりなのでしょう。
牛肉のベーコンなんていう風変わりなものがありましたっけ。
定番メニューの焼きそばなど、やっぱり豚肉を入れたいですが、代わりに子牛(veal)肉の薄切りをつかっている日本人家庭は多かったです。
お酒に関しては、もう諦めるしかありません。作るのも飲むのも違法ですから。でも、ジュースに糖分と酵母を加えれば、ワインっぽいようなものもできるそうです。無精な私は、一度も挑戦したことがありません(笑)。
そうそう、みりんは甘い透明の炭酸飲料(スプライトやセブンアップなど)で代用していました。
リヤドには韓国人経営の店があって、在住日本人の多くがそこで食材を調達していましたよ。懐かしい日本のマヨネーズやトンカツソース、冷凍のウナギ(蒲焼き)もあるし、小豆やアラメも。生鮮野菜も、シソや三つ葉が置いてあって驚きました。フィリピン人が多く住んでいるためか、一般スーパーマーケットでも、寒天、片栗粉、米粉など、粉類が充実していました。タガログ語で何というのか、在住年数が長い奥さまになるとよくご存知でした。
今はカナダですから、豚肉は簡単に手に入りますが、そうなると強烈に食べたくなることもないみたいですね。
こっちに来て見つからないのは、すき焼き用の薄切り肉。まだまだどこの店で何が売られているのか、研究中です。
【ツムトーベル】
郷らむさんのおっしゃるように、すき焼き用の薄切り肉など、日本と欧米で肉の売られ方が違いますよね。私も半冷凍して包丁で一枚一枚切ったり肉屋さんに何分もかけて説明したりと苦労しているのですがみなさんはどうですか?
【増本】
薄切りのお肉は韓国食料品店で売っているプルコギ用で代用しています。スーパーでもフォンデュ用の薄切り肉を冷凍セクションで売っているのですが、脂身が少なく、すき焼きにはちょっと物足りない感じです。でも娘は脂身が嫌いなので両方混ぜて使っています。
10年くらい前までは、アジア関係の食材はまったく手に入らず、すき焼き肉はツムトーベルさんのようにお肉を半冷凍してスライサーで薄切りにしていました。
【やほい】
薄切り肉!これは、もう箸の文化から来るんですよね。
どうしても必要があれば、お肉は半解凍状態で自分で切りますが、私の場合はどちらかというと、「ある材料でできるものを作る」が基本なので、苦労して薄切り肉を調達するより、薄切りでなくとも良い工夫をしてしまうかな。
たとえば、「牛丼」だと薄切り肉がいるので、代わりに包丁で簡単に切れる程度の肉片にして、味付けは牛丼風にしたりね。呼び名を「照り焼きビーフ丼」「ステーキ丼」「焼肉丼」とかにしちゃえばOK(笑)。
【ツムトーベル】
それでは、海外では手に入りにくい食材を手に入りやすいもので代用している例はありますか?一度こちらの日本人家庭に伺ったら「ふき」の代わりに「セロリ」を使って煮物を作っていらして良いアイデアだな、と思ったのですが。
【やほい】
キンピラごぼうが食べたいと、キンピラにんじんとかキンピラセロリを作ります。ごぼうが手に入らないので、歯ごたえさえあれば、何でもいいやって感じです。キンピラごぼうって、ごぼうがかたくて辛いのを金平浄瑠璃になぞらえたものらしいので歯ごたえのある材料に、ごま油でいため、醤油と砂糖で煮て、刻み唐辛子をかければ、キンピラ○○って呼んでいいんじゃないのかな?
海外で暮らしていると、固定観念を捨てないと、日本の味が楽しめなくなりません?
刺身が食べられないアメリカ人のお寿司にアボカドをネタにしたお寿司はよくありますが、同様に、クリームチーズのお寿司もけっこうイケます。サモアに住んでいた頃は、イカのお刺身代わりに、ココナツの果肉をわさび醤油で食べたり、寿司ネタにしてましたよ。
醤油、みそなど基本の調味料さえあれば、それなりに日本の味は楽しめると思っています。
【増本】
香港返還前後から、中国系の移民が増えたお陰で、今ではほとんどの食材が手に入ります。以前だいこんが無かったころ、赤ラディッシュをすって代用していたことがむしろ懐かしく思い出されます。
今でも手に入らないものといえば、茗荷とやわらかいカブかしら。茗荷は私の好物なのです。手に入らないと余計食べたくなります。何度も苗をトライしたのですが根付きません。あ〜たべたい!
友人にオーガニック納豆と味噌を作る人がいて来週白味噌づくりに挑戦するところです。
【ツムトーベル】
白味噌づくり!わたしは白味噌のファンなので是非つくってみたいです。
【郷らむ】
私も、昌子さんの白みそ作り、気になります〜!
私は名古屋の出身なのですが、おみそ汁は白みそ。ゆで野菜や田楽のタレは赤みそ、という感じなので、どっちも欲しいんですよね。
【増本】
できたらお知らせしますね、でも教えてくれる人が米麹を持っているので、麹を手に入れるのが大変かもしれません。
【ツムトーベル】
さて、昌子さんにとっての「茗荷」のようにどうしても日本から手に入れたい食材はありますか?
種を送ってもらって育てるなどの工夫をしているとか…。私は一度青じそに挑戦したのですが枯らせてしまいました…こちらではなぜか赤じそは手に入ります。
【増本】
茗荷は、はじめは茗荷だけ数回、次は根っこを湿らせて2回、最後は土つきで3回もトライしました。大きな鉢に植え、室内で育てて葉茗荷までは育ったのですが、その後枯れてしまいました。
【郷らむ】
うーん、特にないかも。
シソとか三つ葉、茗荷などなど、あったら良いなとは思いますけどね。
あ、そば粉も欲しいかな。乾燥わかめや昆布、鰹節も欲しい!でも、取り寄せまではしないです。日本の家族に迷惑だと思うし(苦笑)。一時帰国も滅多にしないですから。
【ツムトーベル】
食材だけでなく、調理器具はどうでしょう?
私はこちらに来るとき四角の玉子焼きパンだけは買ってきたのですがこれだけは日本製を使っているというものがありますか?
また、コンロに関してはどうでしょう?火力や火加減がいまひとつの電気コンロが不満でガスコンロを入れることが私の夢なのですが、みなさんのお住まいの地域ではどうなのでしょうか?
【増本】
重宝しているのは母が持ってきた餅つき機。30年以上前のモデルなので全自動ではないからタイミングよく取り出さなければならないのですが、年中美味しいのり餅やすき焼き(我が家はすき焼きにおもちを最後にいれます)が食べられるのがいいかな。今は餅つきモードもついているホームベーカリーがあるそうですね。
【やほい】
ところ変ると、必要だったものも不要になるんですよね。
サモア時代の我が家の食生活は、夫と息子たちが釣ってきた魚を調理して食べることも多かったので、日本から持参していた、鱗取りが大活躍したのですが、ミシガンに来てからは、鱗のついた魚なんて売ってもいないので、鱗とりは眠ったままです。
【郷らむ】
あ、私も前回日本に赴任した時、四角い卵焼きパンを買いました! たまーにしか使いませんけど、やっぱり厚焼き卵はあれじゃないと、ですよね。
コンロ、やっぱりガスが良いですよね。取り替えたいですけど、ウチは前のオーナーさんが気合いを入れてキッチンを改築したばかりで、しかも換気が下方向なんですよ。火力が大きいガスコンロを入れても、煙や油が飛び散ることを思うと、諦めるしかないかなっていう。
【ツムトーベル】
みなさんいろいろ工夫しながら「日本の味」を楽しんでいらっしゃるのですね。お話をおききしていて肩の力が抜けてきた気がします。
【郷らむ】
やほいさんの「手に入るもので」っていうのは、大事だって思います、私も。それに、XXの素みたいなのも使わないです。
以前、あげってどうやって作るんだろう?と思って調べて、目からウロコでした。本当にお豆腐を揚げるのよね。当たり前ですけど。
それと最近、和食って実は楽かも?と思うことがあります。ご飯を炊いて(炊飯器ですが)、例え一菜でもみそ汁を作る。これで漬け物があったら、一食になってしまいますもんね。リヤドでご近所だった方、北米にも住んでらしたことがあり、北米のビールは軽くて良いと、糠の代わりにパンにビールをしみ込ませて、野菜を漬け込むんだと教わりました。まだやってみたこと、ないんですけどね(汗)。
今の若い方々にはぜひ、創意工夫して、日本の味を伝承して頂きたいですね。ナントカの素とか使わないで。
【やほい】
そうですね。サモア時代は、炊飯器もなかったので、ご飯も毎日鍋で炊いていましたが、日本にしかいなければ、炊飯器がなければご飯は炊けないと思っていたかもしれません。そういう意味では、海外で暮らすようになり、不便を受け入れ工夫することを覚えました。
私のまわりには、なんとしてもおいしい“日本食”を食べたいと、食材買うため、往復500kぐらいの距離を運転して行っちゃう方もいますけど、買って来るのがクックドゥーの○○の素、寿司太郎、お稲荷さんように煮てある油揚げ、和風ドレッシングに焼肉のタレとかだったりするところがおもしろい。そういうのって、確かに便利ですけど、結局はインスタント食品だし、基本の調味料をそろえておけばもっと美味しいものができますよね。
長寿国日本が誇る、和食の良さは、子どもたちに伝えたいことでもありますので、そのためには家庭で和食の味、お袋の味をそれなりに味わわせ、世界のどこで生きていこうと、「日本の味を恋しく思う心」を受け継いで行ってほしいと思っています。
【ツムトーベル】
みなさんのお話を参考に、これから私も創意工夫の精神で日本の味に挑戦していきたいと思います。今回はどうもありがとうございました。