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ドクターはいずこ?
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    「医者に言いたいこの一言」
    文:郷らむなほみ(カナダ・オンタリオ州在住)


     カナダに越して以来、戸惑うことは数々あれど、私が一番驚いたのは医療事情だろうか。ファミリードクターに登録しなさいと言われたものの、近所のクリニックは患者数が多過ぎて受け付けてもらえない。仕方なく、隣村の診療所に連絡したら、「ウエイティングリストの4番目で良ければ」ということで仮登録。これじゃあ誰か殺さないことには順番が来ないね……と、夫が笑えないジョークを飛ばした。かつて、アラビア半島でやたらカナダ人のナースやドクターが多い気がしたが、あの人たちは自国を捨て、給料非課税の国へ出稼ぎに行っているのだと知った。

     思えば、日本に居た頃は、年に一度の無料誕生月検診があった。申し込みを忘れると、保健所から連絡が来る。病気は予防が肝心ということか。体調を崩せば、国公立、私立、たくさんの病医院が待っているではないか。月々の保険料を支払い、更に自己負担金が要るものの、こちらの選択で好きな医者に診てもらえるのは、素晴らしい患者の権利に違いない。

     2月下旬、我が町にもようやく新しい診療所が出来て、新患登録をしてくれることになった。越して来てから、既に半年が経つ。決められた日時に、電話のみでの受け付けだ。その日はまるで、有名歌手のコンサートチケットを予約するがごとく、ずーっと電話をかけっぱなし。2時間もリダイヤルのボタンを押し続けた。

     指定された初診日は、5月。電話登録から3ヵ月後だ。子宮内の細胞採取が必要なのだが、タイミングが悪いことに、ツキノモノにあたってしまった。じゃあ次回、と言われて取れた予約は9月。移住前、年に数度は検診をときつく言われた私、仮に癌細胞が出来ていたら、次の診察までにどれほど増えるのだろうかと頭が痛い。

     先月、夫の母が膝の手術をした。80歳を超えている彼女、手術の順番待ちが約2年。それだけ医師の数が少ない証拠なのか、待ってる間に亡くなってくれたらめっけもの、という政府の方針なのか。お金に余裕のある人たちは、国境を南下して米国で治療を受けるのだというが、年金生活者の両親にそんな余裕があるはずもない。幸い、手術で得たチタン製の人工骨頭は、頗る調子が良いらしい。入院7日間のうち、手術も検査も、部屋も食事も投薬も、そしてリハビリ指導までが、全て無料。病院には「会計」という窓口がないらしい。さすがに、高い税金を徴収しているだけのことはある。

     しかし、重病患者に優しく、それ以外に厳しいというのが私の印象だ。人々は通常、具合が悪くなると市販の薬を買って飲む。全て自己責任。そんな現実を見ると、カナダの医療は予防より治療に重きを置いているという、日本とは逆の方向性が見えてくる。相変わらず高齢者は増え続け、より高度の手術、高額な部品・機材が必要とされているのに、医療費はどこから捻出されるのだろうか……。


    ≪郷らむなほみ (ごうはむなおみ)/プロフィール≫
    フリーランスライターで海外転勤族の妻。カナダ人と結婚したものの、アジアたらい回し赴任の末に、2007年秋からやっとカナダで暮らすことになった。苦節17年、ようやくオタワ郊外に居を構えたのは良いが、抱いていたイメージとはかけ離れた日々に苦悩中。カナダは甘くない!
    カテゴリ:『医者に言いたいこの一言』 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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