ピーナッツバター&ジャム・サンドイッチ
2007.12.10 Monday | by chikyumaruz
文・写真:伊藤葉子(米国・ロサンゼルス在住)
子どもの学校のお弁当を毎日作るようになり、情けないがすぐにネタ切れしてしまった。中国系のママさんに、何を入れているか訊いてみた。
「我が家はね、もっぱら“ピーナッツバター&ジャム・サンドイッチ”よ」という答えが。このサンドイッチこそ、アメリカの子どもの定番ランチ。下ごしらえは一切なし。料理の腕など関係なし。スーパーで買った普通のパサパサのパンに、ピーナッツバターとジャムをはさんだだけの、シンプルなサンドイッチ。腐る素材を用いていないので、保冷剤は不要。略して“PB&J”とも呼ばれているこのサンドイッチは、日本人にとっての“おにぎり”に近い存在ともいえる。PB&J、バナナ、牛乳という組み合わせは、こちらの子どもの大好物で、週に3回ほどお弁当に登場するようだ。母親には超ラクで、子どもは大喜び。こんなすごいメニューは、なかなかないと思う。
Wikipediaというネット上の百科事典によると、PB&Jは第二次世界大戦中、米兵により考案されたといわれているそうだ。平均的アメリカ人なら高校卒業までに、このサンドイッチを、何と1,500個食べ、卒業後も食べ続ける。職場のランチに、スナックに、朝食に、いつでも気軽に登場する。最初にPB&Jを出されたときのことを、今でも鮮明に覚えている。しっとり感が皆無のパンと中身の甘さに驚き、その素っ気なさのため、無理やり牛乳で流し込んだ。以来、米国在住13年間1度も食べていない。こちらの人は、ピーナッツはたんぱく質を豊富に含むため、“栄養的には問題ない食べ物”と言うのだが。
スーパーの棚には、ピーナッツバターがずらりと並ぶ。
クリーミー、クランチー、オーガニック、トランス脂肪酸なし、と種類もさまざま。
ところが最近では、みんなの大好物PB&Jが、学校から消える可能性が出てきてしまった。Newsweek誌によると、米国では1,100万人が食品アレルギーに悩み、年々増加傾向にある。同アレルギーで特に深刻なのは、最悪の場合死亡にいたる、ピーナッツアレルギーだ。当然ながら、PB&Jを食べられない子どもが増加しているのだ。私の子どもが卒業したプリスクール(注)では、ピーナッツ製品は一切禁止されていたので、PB&Jをお弁当に持ってくる子どもはいなかった。“オールアメリカン・フェーバリット”は、これからどうなるのだろうか?
注:キンダー入学前の子どもが通う学校で、日本の幼稚園に似ている。義務教育ではない。
≪伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール≫
ライター・翻訳者。カリフォルニア大学卒業後、地元の新聞社勤務。日系企業に関する取材記事を英語で執筆。現在では子育てを通じて、別の視点から米国事情を学んでいる。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。まもなく在米14年を迎える。