娘の就職事情
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    「若者就職事情」
    文:増本昌子(カナダ・モントリオール在住)


     5月からケベック州での最低賃金が少し上がった。今までの時間給8ドルから8ドル50セントへと50セントアップした。ウエイトレス等の場合は1時間7ドル75セントとなった。顧客からのチップも収入と見なされ課税対象となることから、基本給は一般的な最低賃金より低い。

     ケベック州では約25万4千人の人たちがこの賃金体系で働いており、その多くが学生である。学業と平行して働く事は、「アルバイト、又はバイト」という観念ではなく「Job;仕事」と理解されている。若者にとって、学業と共に併せ持つ仕事も、彼らの人生設計のひとこまである。この場合の学業とは、専門職業訓練学校も含めて、ハイスクール以上の教育のことである。

     ケベック州の教育制度は、7歳で小学校に入学後15歳までが義務教育であり、16歳は大きな意味を持っている。親権が必要とされるのも15歳までである。16歳を機に、自分の意思で自分の人生を生きる権利を保障され(税金申告書の義務も発生するが)親も子育ての義務を完了する。多くの子供は、親からの自立をめざす。マクドナルドに象徴されるファーストフードチェーンストア、Retail storesといわれるショッピングセンターのさまざまなストア、スーパーマーケットなど、時間給で働きやすい業界は、学業と自活の両立を模索する若者にとって格好の職種である。そして将来、下記に添付した資料に挙げられている1時間20ドル以上の仕事への就職を目指して資格を身に付ける。(参考資料:CNNニュース

     我が家にはGraduate1年生の娘がいるが、Undergraduateの間、学期中は週末2日働き、夏休み中はほとんど毎日働いていた。上の記事と同じく最低賃金である。

     ケベックの大学は日本と異なり基本的には3年制である。大学入学前に、CGEPと呼ばれる課程がある為で、これは日本で言う高校3年生と大学1年生にあたる。日本でいう大卒はUndergraduateと呼ばれ、大学院卒がGraduateとよばれる。

     娘の学業はあと2年残っているのだが、2年後の就職がこの春すでに決定した。ケベック州全体で一斉に入社試験と面接が行われ、採用後正式に入社するまでの間、スケジュールを調整しながら学業と平行して仕事を覚えていく制度のようである。すべての職種で採用されている方法ではないが、日本では聞かなかった制度だ。

     娘は6月から、毎日10時間以上のリサーチに没頭し、週末も自宅でリポートを作成している。数人の先輩のアシスタントとして必要な書類を作成する事により、事例を覚えていく為だそうである。

     親としては学生の間は無理をせず、健康に気をつけて、ほどほどに勉強すればいいと思ってしまう。しかし、自分の将来を真剣に考えて精一杯行動しているわが子を見ると、学業の合間に仕事を両立させてきた事から得た自信が、自分の生き方を長期にわたって視野に入れることが出来るようである。

     6月からの2ヶ月間は毎日働き、8月はフランスに旅行する計画とのこと、時間給もかなりアップし、一歩ずつ確実に自立への道を進んでいる。


    ≪増本昌子(ますもとまさこ)・プロフィール≫
    自分の学生時代を思い出すと、娘の勉強に費やす時間は果てしなく無限に続くように感じられる。本人も「無期懲役だなぁ」と言いながら励んでいるが、「勉強しなさい」と言わないで済むことは幸せな事なのだろうか……。提出期日に間に合わず、徹夜をすることも青春の一こまである、と思っている私は母親失格かもしれない。

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