わが町の医療事情
2008.07.10 Thursday | by chikyumaruz
文:田中ティナ(スウェーデン/エステルスンド在住)
パキッ! と股関節にいやな痛みが走ったのは一昨年夏の午後、ジョギングのあとストレッチングしているときだった。一両日で直るだろうと様子をみたが痛みは治まらず、いよいよ病院に行こうと決心した。
わが町の医療施設には公共と個人機関があり、主力は税金などで運営されている公共医療機関。県によって異なるが初診料として140クローナ(約2500円)支払うと診療システムに組み込まれ、その後、莫大な費用はかからない。
「熱っぽくって頭痛がする」、「足首をひねった」といった軽症者が専門医療機関に押しかけ、高度な治療を必要としている人々や救急患者の診療を妨げないようにと、体の異変を感じたときには、専門機関に駆けつけるのではなく、まず、自分が所属する地区診療所(住所によって割り当てられている)に電話で診療時間を予約するシステムになっている。
さて、電話予約だが受付時間はウィークデーの午前と午後各1時間のみ。だからかければお話中で、やっとつながったかと思うと、当日、診療予約時間がとれるのは至難の業。ほぼ2、3日待ちというのが現状だ。
地域診療所で私を診察してくれた医師は、専門医になる前の研修医だった。症状、過去の病歴や薬のアレルギーなど基本的な問診後、診察し専門医師の診断や詳しい検査が必要だと診断すると、これからの治療ステップを説明してくれた。
「医学療法士とリハビリのトレーニングができるように手配して、その指示書を郵送しますから連絡を待ってくださいね。お大事に」と、にこやかに送り出されて帰宅。
ところが、待てど暮らせど連絡がこない。痛みもひかず、不安も増してきた。催促の電話をかけると、事務手続きの不備があったらしく、さらに一カ月ほどして、ようやく約束の指示書が送られてきた。
指示に従ってトレーニングジムの医学療法士を訪ね、今までの経過を説明すると、「骨が損傷していないか確認してからリハビリを始めましょう」と、とても丁寧に今後の方針を説明し、その場で、ジムが契約している個人的な医療機関を通じて総合病院にレントゲン撮影の手配をしてくれた。撮影したレントゲンを元に個人医療機関で医師の診断を受け、骨に異常がないことが確認できたのは、ジムを訪れてから1週間もかからなかった。
緊急時は別だが心臓病、白内障、股関節などの手術は、通常、長い間順番を待つ。また、婦人科など定期健診の結果報告は、異常がなければ連絡はない。事務的な手間がはぶけて無駄はないが、「一言『異常ありませんでしたよ』と聞ければ安心できるだろうな」、と思うのは私だけだろうか?
このように、公共と個人の医療機関での患者への対応の差は歴然だ。
こうした現実の原因に、公共機関は医療設備、医者や看護婦などの慢性的予算不足と人材不足を理由に挙げる。また、設備の充実した大規模な病院は予算の潤沢な大都市に集中する傾向もあり、さらに、地域ごとに独立採算制だから人口の少ない地方の町に大病院がつくられることほぼはない。
先日テレビを見ていたら、高等教育担当大臣が「国民の健康を守るために医師や看護師を育てる教育機関の整備は重要課題」と発言していた。が、近年、デンマーク、ポーランドやハンガリーに医者の勉強に留学するスウェーデン人が増加しているという事実がある。デンマークではスウェーデンと同じように教育費は自己負担なし。自国で勉強したいと思ってもそのチャンスがあまりにも少ないため、外国で勉強し、母国に帰ってスペシャリストとして仕事をするドクターたちが増えているのだ。
病気や怪我のときには、体の不調とともに心の不安もつのるもの。
お金がない、人材不足だから必要なケアが必要なときに受けることができないという悪循環が、一日も早く終わりになるように期待している。
≪田中ティナ/プロフィール≫
エイビーロードのホームページでスウェーデン情報を発信中。この夏は19世に建ったサマーハウスの改築を計画している。2010年バンクーバーオリンピックもフリースタイルのジャッジとして協力予定。真剣勝負に挑む選手の演技に負けないように、ジャッジング技術の向上に努めることを決意。