芸術的才能を発掘、そして育てる教育(アメリカ合衆国)
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    「世界の教育事情」
    文:椰子ノ木やほい(ミシガン州・アメリカ合衆国)


     芸術教育というと、堅苦しく聞こえるかもしれないが、ミシガン州ではハイスクールの生徒たちを対象に、毎年ユニークかつ大掛かりな取り組みが行われている。

     ミシガン・ユース・アーツ(Michigan Youth Arts)という名で親しまれる年に一度のこの祭典は、ミュージックキャンプで有名なインターラーケン・アート・キャンプの創設者、Dr.Joseph E. Maddy により、1963年に設立されたもので、以来、“ミシガン州”の若い芸術家の卵を発掘し育てる由緒ある祭典として毎年、5月にウェスタン・ミシガン大学において開催されている。

     音楽に関して言えば、参加希望者の多くはハイスクールで吹奏楽や管弦楽などを学ぶ生徒たちで、予選とも言えるソロ&アンサンブルというコンテストに参加し、良い成績を得た生徒だけがその先のオーディションへと進み、さらに選抜を通った者だけが祭典に参加できる。

     こうして、州内25万人のハイスクールの生徒の中から約9ヶ月かけて、音楽をはじめとし、ダンス、ビジュアルアート、演劇など多彩なジャンルに及ぶ卓越した才能を持つ生徒を選りすぐり、野球でいうなら差し詰め、オールスターチームのようなミシガン州ハイスクールレベル最強の合唱団、オーケストラ、ジャズバンド、シンフォニックバンドを作り上げる。

     ジャンルごとの選抜を通り抜けた若き将来の芸術家が、会場となる大学のキャンパスに一斉に集い、それぞれのフィールドで2泊3日のキャンプをしながらみっちり合同練習をする。講師には、各分野で活躍されている著名な大学教授や音楽家が迎えられ、参加者の指導にあたるというのも、この祭典に参加する大きなメリットだ。初顔合わせから3日目にはプロ顔負けのパフォーマンスを披露してくれる。州内各地から集る生徒たちは、新たな友情をみつけたり、新しい刺激を受けたりと実りある時間を過ごす。

     芸術というジャンルは、高校受験や大学受験のある日本では、ひとつの教育としてなかなか定着しがたい分野かもしれない。しかし、スポーツや芸術は私たちの暮らしや心を豊かにしてくれる。芸術のない世界で生きるのは味気ないものだ。そう思うと、豊かな社会を築くため、子どもたちに備わった才能を発掘し、育てることは教育に携わる大人たちの義務とも言えるだろう。

    ≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
    たまたま今年、我が息子が州代表ジャズバンドのトランペッターに抜擢されたため、キャンプを見学、そして公演を観る機会を得た。オーケストラ、合唱、ジャズバンドなど、とてもハイスクールの生徒とは思えないパフォーマンスを見せてれた。カーネギーホールを想わせる大きな劇場に惜しみない拍手と割れんばかりの歓声がいつまでも響いていた。参加した全ての子どもたちの将来がほんとうに楽しみだ。ブログ:みしがんでいず
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    オペラハウスでの実習体験(オーストリア)
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      『世界の教育事情』
      文:パッハー眞理(ウィーン・オーストリア)

       オペラの演目は大体3時間ほどかかる。中には「ヘンゼルとグレーテル」のように子ども用のオペラもあるが殆どの演目は大人用だ。

       芸術の都であるウィーンには4つもオペラハウスがあり、日替わりメニューのようにオペラを上演している。特に世界3大オペラのひとつと言われるウィーン国立歌劇場では世界でも一流の歌手やら指揮者が来て演奏する。しかも立ち見席は400円くらいと安く見ることが出来る。ウィーンは世界中の音楽留学生にとってはまさに宝庫だ。

       そんなウィーンの小・中学生にとって面白い実習がある。
      それはオペラハウスのステージを生徒たちが実体験しようというものだ。国立歌劇場のような所ではさすがにこのプロジェクトは出来ないが、オペレッタで有名なフォルクスオーパーで実現できる。いつも「受け身」だけの小さなお客さまもその日は「実体験」出来る日だ。

       衣装係りの人がオペラで実際に使用されているコスチュームを着せてくれたり、メイクの人からはオペラ用のメイクをしてもらったり。男の子たちはステージの上に組まれた高いやぐらの上で、照明係りから説明を受けながら実際にライトを扱わせてもらえるのだ。衣装をつけ、メイクをした人たちは、ステージの上で簡単なセリフを言わされる。舞台監督も特別に子どもたちのために説明してくれて気分はすっかりオペラ歌手? 小さい頃から裏方、舞台監督による課外授業。とても素敵な生きた教育だと私はうらやましく思う。

       将来の歌手がもしかしたら誕生するかもしれない。

      ≪パッハー眞理(ぱっはーまり)/プロフィール≫
      ウィーン生まれで東京育ち。ピアノ教師兼ライターとしてウィーンに暮らす。とうとう海外生活は33年目に突入。日本にいた時よりもはるかに外国暮らしが長い。毎日愛犬コッカースパニエルと自然の中を散歩して気分転換をはかっている。UCC上島珈琲、新卒OLを元気にするサイトの特派員もつとめホットな話題を提供している。オーストリアプレスクラブコンコルディア会員。著書『アウガルテン宮殿への道』ショパン刊がある。
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      全国から高校卒業生が大集結!(オーストラリア)
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        『世界の教育事情』
        文:ケイブ(ゴールドコースト・オーストラリア)


         毎年11月半ばから12月初旬はオーストラリアでは卒業シーズン。この時期、ゴールドコーストの中心地サーファーズパラダイスは数千人もの高校生であふれかえります。卒業記念パーティのために全国から集結するのです。

         通称スクーリーズと呼ばれる彼らは、コンドミニアムを借りて2〜3週間ほど滞在します。昼間はビーチやテーマパークで遊び、夜はパーティをして連日連夜の大騒ぎ。州によって卒業の日が違うので、第一弾、第二弾と押し寄せてきます。州を越えて新しい友達を作ることや、たくさんの仲間で集まってパーティ騒ぎをするのが楽しいようです。

        18歳から飲酒が認められているので堂々と飲酒ができるのですが、酔っ払った高校生がホテルのベランダで騒ぐ姿は当たり前。通行人めがけて卵を投げつけたり、ビールを浴びせたり、したい放題!

         観光業がメインのリゾート地ですがこの時期ばかりはホリデーにはお勧めできません。近隣住民にとっても赤丸要注意。サーファーズパラダイスにはできるだけ近寄りません。近辺市街地にもスクーリーズが車やレンタルバイクで出没するので、運転にはいつも以上に気を配り、視線を合わせないようどきどきです。

         さらに麻薬や喧嘩で逮捕者が出るのも毎年のこと。その多くは、高校生にまぎれて騒ぎに来る大人たちのよう。市は対策として、本物の高校生を証明するIDを発行しています。そして、街中には警察が24時間体勢で待機して目を光らせるのです。

         日本では卒業シーズンといえば涙々の感動の場面いっぱいですが、ゴールドコーストでは日本領事館から注意喚起のお知らせが出るほど危ないものなのです。

         宿泊施設側もこんな大騒ぎの子供たちがいては他の宿泊客の迷惑になるので、「スクーリーズお断り!」を謳っているところもあります。それでもどのホテルにも高校生の姿が見えます。実は親が代わりに予約を取っているというのです。1年以上前から予約が埋まるので、親子そろってこのときのために備えているのです。

         わが子がこのイベントに参加するといったら気が気ではないと思いますが、18歳未満にもかかわらずアルコールを差し入れした親がニュースで報じられたこともあります。そうかと思えば、この乱痴気騒ぎに参加させまいと海外旅行をプレゼントするケースもあるようです。

         いろいろと問題はあるものの高校生にとっては記念すべき一大イベント。2歳の息子が大きくなるまでに、少しでも健全なものになってほしいと願うのみ……今から気の早い心配をしています。


        ≪ケイブ/プロフィール≫
        日本での外資系ITメーカー勤務の後、海外生活を実現させるためオーストラリアに渡る。ITマネージメントを現地大学院で学んだ後、永住権取得。現在は、一男の母、主婦、そしてIT関係でパートタイムで働く日々。次なる夢はエッセイストとして活躍すること。がんばります
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