この子だれの子?
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    『この子うちの子』
    文:伊藤葉子(米国・ロサンゼルス在住)
     

     あなたの子どもが、親である自分に全く似ていない。子どものベビーシッターだと勘違いされ、ましてや誘拐犯だと疑われたら。どう思うだろう?

     生まれたての次男は黒髪で、一重まぶたの切れ長の目をしていた。スウェーデン系米国人である夫の友人が彼を見て、こう言った。

    「おいおい、本当にお前の息子か」

     次男は、それほど東洋的な顔の赤ん坊だった。

     ところが生後2週間もすると、彼の目はぱっちり開き、赤毛になったのだ。今度は母親の私が買い物や用足しに連れて行くと、店員から怪訝な視線を向けられるようになった。

    「あの、夫がアメリカ人なので」

    すると皆、納得する。

    「ちなみに、私は血のつながった母親です」と付け足すと、大笑いされたものだ。

     こちらでは第三者提供の卵子や精子により、子どもを授かる人がいる。アンジェリーナ・ジョリーのように、外国から孤児を迎えて自分の子どもとして育てる人もいる。こうして自分と全く似ていない子どもを持つ人はいるが、私の場合は正真正銘自分の子どもなのに。

     次男が1歳の誕生日を迎える頃には、金髪になっていた。父親そっくりだった。私がジャージ姿で次男を公園へ連れて行くと、彼のベビーシッターだと勘違いされる。なるべく、“見た目のいい”服装をするように心がけたものだ。

     ある日、次男を子ども専用のゲームセンターへ連れて行ったときのこと。数時間遊ばせた後、帰ろうとしても彼はもっといたがっている。昼寝の時間になるので、抱っこして連れて帰ろうとすると、次男は泣き叫んで私のことをかもうとするのだ。すると誰かが後ろから私の肩をたたいて、こう言った。

    「ちょっと、この子は本当にあんたの子どもなのか?」
     私のことをにらみつけるので、今度は私が怒った。

    「私の息子ですよ、何でそんなこと言うんですかっ!」
     今では笑い話だが、このときはかなりムッとした。

     自分の息子のベビーシッターによく間違われるという、メキシコ人の友人は、同胞から時給はいくらかと訊かれると、こう答えるそうだ。

    「私は福利厚生付きで、しかもこの子の父親と一緒に寝ているのよ」
    ここまでジョークにしてしまうと、もう立派である。

    ≪伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール≫
    ライター・翻訳者。カリフォルニア大学卒業後、地元の新聞社勤務。日系企業に関する取材記事を英語で執筆。現在では子育てを通じて、別の視点から米国事情を学んでいる。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。在米14年。
    カテゴリ:『この子うちの子』 | 12:53 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
    私、この子の親なんです
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      『この子うちの子』
      文:西川桂子(バンクーバー・カナダ)


       息子はティーンエイジャーとなった今でこそ、髪の色が濃くなってきたが、小さい頃はブロンド。「お母さんは日本人で黒髪なのにね」と、周囲の人たちに驚かれたものだ。一方の親が黒髪だと、子どもの髪は黒か濃い栗色が多いためだ。やわらかいブロンドヘアで、わが子ながらキレイな髪をしていると感心していた。

       しかし、ある日、ブロンドは考えものだと思う事件があった。

       息子が3歳すぎのかんしゃくをよく起こす時期だった。ショッピングセンターで見かけた玩具が欲しいと大騒ぎを始めたのだ。

      「ダメ!」
       と却下したが、ついには床に寝転がって泣きだした。

       起こして「ダメって言ったら、ダメ。ほら行くよ」と手を引こうとしたら、その手を振り払って、座り込んで泣いて動かなくなった。

      「じゃあ、10まで数えるよ。来ないとママ(私)はもう行くからね。1、2、3……」

       10まで数え終わったのに、座って泣いている。

       ここで負けたらしつけにならないと思った私は
      「じゃあ、ママは行くから」と言って、息子を残して行ってしまうふりをして、近くにあった大きな柱の後ろに隠れて様子を見ていた。

       すると、泣きながら追いかけてきたので、「よしよし。ダメなものはダメなんだから」と、涙でぐちゃぐちゃの顔を拭いていると、白人のおばさんが私たちのところに、つかつかと近寄ってきた。

       そして開口一番
      「あんたの雇い主の電話番号を教えなさい!」
      と聞く。

      「?」(何で私のボスの電話番号が必要なの?)
      「さっきから見てたけど、あんたの態度はナニー(注)として最低よ!」

       わかった。ブロンドの息子と黒髪の私の組み合わせ。特に私は色黒だし、バンクーバー辺りに多い、フィリピン人のナニーさんと間違えられたのだ。

      「この子、私の子どもだけど、何か!」と言うと、「それなら、いいわ」とばつの悪そうな顔でおばさんは去っていった。

       その話をすると、「XX君(息子の名前)、桂子さんにそっくりなのにね」と友人たちに大笑いされた。

       一方の親がインドや中国系などで黒い髪だと、やはり私と同じような経験をする人がいるらしい。アイルランド人と先住民の父母の間に生まれた義姉、レスリーもそんな一人だ。黒髪で顔もどちらかというと先住民の特徴が強い。スコットランド人と結婚したので、子どもたちは先住民の血が四分の一という計算になる。

       さて、姪たちだが、特に妹は見事なプラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの目。先住民の血が入っているとは、全くわからない容貌だ。「どこに行っても、ベビーシッターと間違えられて、親だと思ってもらえないの」と、いつもぼやいていた。

       業を煮やしたレスリーはブロンドに髪を染めた。成果はあったのか興味があるのだが、残念ながら教えてくれない。


      注)カナダのナニーはベビーシッター。住み込みも多いが、通常、フルタイム、つまり一日8時間程度、子どもの世話をしてくれる。ちなみに、カナダではメリーポピンズのような教育係的な意味合いはない。


      ≪西川桂子 (にしかわけいこ)/プロフィール≫
      フリーランスライター、翻訳家。3月に家族で日本へ里帰りをした。公園で子どもたちが遊んでいたとき、末っ子がジャングルジムから転落。頭から落ちたので真っ青になって駆け寄り、息子も「マミー」としがみついて泣いていたというのに、周囲の日本人のお母さんや子どもたちは「お母さんどこ?」

      またもや私が親だとは思ってもらえなかったようです。
      カテゴリ:『この子うちの子』 | 00:28 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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