イネ・畑・競馬ウマ?!世界中を駆け巡る婚家先の珍名度!
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    『国際結婚・笑える名前』
    文:澤野 禮子(オランダ・アムステルダム市在住)

     婚姻を機に、苗字をオランダ姓に変えたのは今から10年ほど前になる。どうも、農業関連の名前と縁があるようで、私の旧姓はイネに因む苗字であるし、婚家先名は和訳すれば「高台のだだっぴろい畑」だ。この高台の畑なる姓が、これほどの誤解と混乱を招くとは当時予想すらしていなかった。

     オランダでは結婚と同棲が法的にも同等である。従って、敢て婚姻を理由に姓を変更する女性はまずいない。生涯、持って生まれた名前で通すオランダ人女性が殆どである。外国人の私は、自分の意志で姓の変更を行ったわけだが、これがまたオランダ人たちには、稀有にうつったようである。変更届けを提出した市役所の役人が、申請書を見るなり、息せき切ったように言ったセリフがそれを物語っているといえるだろう。

     「いやはや、わざわざ地球の裏側からやってきて、オランダ人と結婚したとは!苗字まで変えたいって? 何と奇特なこった!それはそうと、一体どこでお2人は知り合ったんです?」

     事務的な処理は二の次三の次、といった按配だったので、馴初めを報告しに市役所に出向いたようなものだ、と苦笑せざるを得なかった。

     以来、私は法的にもホーフアッカーさん、と呼ばれるようになったのだが、これがまた、やたらと発音が難しい苗字なのである。ホー、で1拍置き、アッの所は喉で唸るようにして響かせ、カーはため息をついて語尾が消え入るように発音するのだ。

     この苗字を引っさげて、在蘭日本大使館まで姓名変更届けを提出しに行ったときのこと。苗字を見た館員らの困惑しきった表情は今でも決して忘れられない。日蘭双方の戸籍謄本を、代わる代わるじっくり見直していた2人の館員は、おもむろにこちら側に背を向け、何やらひそひそ声になった。どうやら、私の苗字について話し合っているようだ。

     「ああ、これこれ。ホー? 何て読むのこれ?」
     「ホー、ハッカー、でしょ」
     「え? ハッカー、ってのはまずいじゃん」
     「そうだねえ。じゃ、ホガッカーかね?」
     「何かさ、競馬ウマみたい」

     ホッカー、ホーアガッカー、フーガカー、オウーガッケーア。

     変幻自在の珍名に嫁いだ結果となったが、最近では訂正する気力も失せ、どう呼ばれてもよくなってきた。日本語読みを始めとして、英語読み、ドイツ語読み、フランス語読みと、世界中どこを駆け回っても、私の苗字はインターナショナルな珍名であることだけは、変わりないようである。

    ≪澤野 禮子(本名・かおる ホーフ アッカー)/プロフィール≫
    本名を述べると、職業は漫才師か、はたまたマジシャンか、それともコメディアンか?と質問されるようになって以来久しい。最近、ペンネームも兼ねて姓名の変更を行ったばかりだが、その理由はお読み頂いたとおり。
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    難しすぎる?! ポーランドの苗字
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      『国際結婚・笑える名前』
      スプリスガルト 友美(ポーランド・ポズナン在住)

       私が未来の夫と初めて出会った時、苗字を聞いて耳を疑った。聞き取れなかったのだ。スペルを紙に書いてもらい、もう一度発音してもらってやっと理解した。後で聞いたところによると、夫の苗字はドイツ系で、ポーランドでも大変珍しく、スペルミスや聞き直しは日常茶飯事なのだそう。私の旧姓は“伊藤”というありふれたもので、常に珍しい苗字に憧れていたものだが、結婚してそれが現実になったどころか、ポーランドでも日本でもかなり稀な苗字になってしまった。同姓同名の人物に会える確率はゼロに近い。

       一時的に日本に滞在することになって、“憧れの珍しい苗字”が苦労のもとに変わった。電話口で何度苗字を繰り返したことだろう。「スイカのス、プリンのプ……」、などと一文字ずつ区切って苗字を説明しても間違われることがしばしば。“スプリット”さん、“スプリント”さんなどと呼ばれる始末だ。

       ポーランドの苗字で一般的なのは“-ski(スキ)”で終わる名前。中でも“Kowalski(コヴァルスキ)”という名は“Nowak(ノヴァク)”と並んで最もよくある苗字の一つである。(ちなみに、“-ski”で終わる苗字はポーランドのものだそうで、世界各国で見かける同様の苗字を見れば、先祖にポーランド出身者がいたということになるようだ。)

       ポーランドに住み始めてから様々な苗字を目にするようになったが、実は上記のコヴァルスキさんやノヴァクさんにお目にかかったことはあまりない。それよりも面白い苗字が目に留まる。

       たとえば、有名人だとテレビアナウンサーの“Lis(リス)”さん。“Lis”とはポーランド語で“キツネ”を意味するのだが、日本でも親しまれそうな名前だ。銀行や病院などで“リスさん”なんて呼ばれたらかわいらしいだろうな、などと想像してしまう。

       “Budda(ブッダ)”なんていう苗字も見たことがある。ポーランドは言わずと知れたカトリックの国なのに、“ブッダ(仏陀)”なんて。日本のお寺で名前を書いたら、ふざけていると思われてしまうだろうか。

       国際結婚しなければ、気にならなかったであろうカタカナの苗字。日本ではどんなに難しい苗字と思われようとも、私にとっては大切な家族の苗字であり、これからも誇りに思っていたい。

      ≪スプリスガルト友美(スプリスガルトトモミ)/プロフィール≫
      フリーランスライター・翻訳者。東京外国語大学にてポーランド語を専攻。日本文化を専門にするポーランド人の夫と2002年からポーランド在住。大好きなポーランドの児童書に囲まれて過ごす日々を送る。自分が翻訳した児童書を出版する日を夢見て、児童書を含むポーランドに関する情報をホームページやブログで発信中。「友美とヤツェクの宝箱」 夫と共同で運営しているホームページ「poziomkaとポーランドの人々」 ポーランド関連のことを記しているブログ
      カテゴリ:『国際結婚・笑える名前』 | 00:02 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
      名前に取り憑かれて
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        『国際結婚・笑える名前』
        文:夏樹(フランス・パリ在住)

         夫の同僚に、クレタンさんという女性がいる。クレタンというのは、仏語では「馬鹿、低能」という意味だが、名前とは反対に、彼女は優秀な社会学者だ。

         また、うちの隣のアパートには、ネアン氏という不思議な人物がいる。ネアンというのは「虚無」「無価値」という意味である。「虚無」氏はいつも松葉杖をついていて、アパートの入り口の前で誰かが通るのを待っている。そして、通りすがりの人に頼むのだ。「申し訳ないのですが、身体が不自由なもんで、ドアを開けていただけますか?」ちょっとはにかんだような、薄い笑みを浮かべて。

         しかしある日、地下鉄の駅で、ホームに停車していた電車に乗るために、ものすごい勢いで階段を駆け下り、猛ダッシュして来る「虚無」氏を見かけてしまった。松葉杖持っているのに……

         この話を、「虚無」氏と同じアパートの住人のひとりにしたところ、彼は笑って言った。
        「ばっかだな、本当にあいつが足が悪いなんて信じていたの? 松葉杖がなかったら、誰にも相手にされないような奴さ」

         いったいどういう経過を経て、「虚無」氏は身体が不自由な人を装うようになったのだろう? 松葉杖を手にすると、みんなが親切にしてくれて、「存在」することができるようになるのかしら? そう考えると、もし、彼が「虚無」なんていう名前でなかったら、別の人生を歩んだかもしれないと考えざるをえないのだ。

         ネアン氏のように名前に乗っ取られる人もいれば、クレタンさんのように名前を超える人もいる。しかしどちらにしても、名前に取り憑かれた人生であることに変わりはない。

         私の本名は咲耶だ。古事記にある「木の花咲耶姫」に由来するにもかかわらず、こどもの頃は「さくやはくさい」といって、囃(はや)し立てられた。フランスに来てからは、「さく」というのがフランス語では男性の身体の一部をさすことから、さんざん笑われた。

        「その名前、フランス風に変えたら?言いにくいし、憶えにくいもん。『サビーヌ』とか?」こう勧められたことがある。
         
         私の中に、憤りのようなものがこみ上げた。夫のはなしを思い出したのだ。「うちのおばあちゃんは、女中さんはみんな、『マリー』って呼んでいた。たかだか女中の本名なんて憶えるに値いしないって言ってね」
         
        「なめてもらっちゃ困るわ。あんたたちが憶えやすいようにって、自分の名前を変えたりなんてしない!」

         気がついたら、私も名前に取り憑かれて、「困難な人生」を選んでいた。「サヤカ?」「サキヤ?」「セイコー?」と毎回まちがえる輩を相手に、憶えるまで、何度でも「サクヤだったら!」と繰り返す毎日を。


        ≪夏樹(なつき)/プロフィール≫
        フリーランスライター。在仏約20年。パリの日本人コミュニティー誌「ビズ・ビアンエートル」や日本の女性誌に執筆。



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