イネ・畑・競馬ウマ?!世界中を駆け巡る婚家先の珍名度!
2008.01.10 Thursday | by chikyumaruz
文:澤野 禮子(オランダ・アムステルダム市在住)
婚姻を機に、苗字をオランダ姓に変えたのは今から10年ほど前になる。どうも、農業関連の名前と縁があるようで、私の旧姓はイネに因む苗字であるし、婚家先名は和訳すれば「高台のだだっぴろい畑」だ。この高台の畑なる姓が、これほどの誤解と混乱を招くとは当時予想すらしていなかった。
オランダでは結婚と同棲が法的にも同等である。従って、敢て婚姻を理由に姓を変更する女性はまずいない。生涯、持って生まれた名前で通すオランダ人女性が殆どである。外国人の私は、自分の意志で姓の変更を行ったわけだが、これがまたオランダ人たちには、稀有にうつったようである。変更届けを提出した市役所の役人が、申請書を見るなり、息せき切ったように言ったセリフがそれを物語っているといえるだろう。
「いやはや、わざわざ地球の裏側からやってきて、オランダ人と結婚したとは!苗字まで変えたいって? 何と奇特なこった!それはそうと、一体どこでお2人は知り合ったんです?」
事務的な処理は二の次三の次、といった按配だったので、馴初めを報告しに市役所に出向いたようなものだ、と苦笑せざるを得なかった。
以来、私は法的にもホーフアッカーさん、と呼ばれるようになったのだが、これがまた、やたらと発音が難しい苗字なのである。ホー、で1拍置き、アッの所は喉で唸るようにして響かせ、カーはため息をついて語尾が消え入るように発音するのだ。
この苗字を引っさげて、在蘭日本大使館まで姓名変更届けを提出しに行ったときのこと。苗字を見た館員らの困惑しきった表情は今でも決して忘れられない。日蘭双方の戸籍謄本を、代わる代わるじっくり見直していた2人の館員は、おもむろにこちら側に背を向け、何やらひそひそ声になった。どうやら、私の苗字について話し合っているようだ。
「ああ、これこれ。ホー? 何て読むのこれ?」
「ホー、ハッカー、でしょ」
「え? ハッカー、ってのはまずいじゃん」
「そうだねえ。じゃ、ホガッカーかね?」
「何かさ、競馬ウマみたい」
ホッカー、ホーアガッカー、フーガカー、オウーガッケーア。
変幻自在の珍名に嫁いだ結果となったが、最近では訂正する気力も失せ、どう呼ばれてもよくなってきた。日本語読みを始めとして、英語読み、ドイツ語読み、フランス語読みと、世界中どこを駆け回っても、私の苗字はインターナショナルな珍名であることだけは、変わりないようである。
≪澤野 禮子(本名・かおる ホーフ アッカー)/プロフィール≫
本名を述べると、職業は漫才師か、はたまたマジシャンか、それともコメディアンか?と質問されるようになって以来久しい。最近、ペンネームも兼ねて姓名の変更を行ったばかりだが、その理由はお読み頂いたとおり。