「金は禁!?出る杭だって絶対に打たれないオランダ」
2007.12.25 Tuesday | by chikyumaruz
文:澤野 禮子(オランダ・アムステルダム市在住)
「沈黙は金」、という言葉がある。やたらと無駄に喋るよりも、黙っていたほうがずっと、相手に威圧感を与え、説得力を感じさせる効果がある、という意味らしい。
しかし、だ。「ここは黙って」とか、「減らず口をきかず」といったような、日本でだったら当然のことが、オランダでは全く通用しないのである。
初めてオランダに来た年の暮れ、配偶者の家族とクリスマスの食卓を囲んだ時のことだ。まずオードーブルが運ばれてきて、それでは静かに頂きましょう、などとかしこまっていたのは私だけ。開口一番、皿の上に乗った食材の吟味と品評が始ったのである。エビの大きさが皿のサイズに合っていない、アボカドの色が悪い、塩加減はどうだ、思ったよりもまずい、などなど、彼らにとっては、食するよりも批評を述べるほうが重要らしく、機関銃の如くに各人が勝手に喋りまくるという具合である。大声のモノローグ、とでもいおうか、誰もお互いの意見に耳を傾けたりはしない。ただ勝手に、自分の思いつくままを怒涛の如く吐き出しているだけなのである。
会話とは、ピンポンとかテニスに似ていて、相手が打ったらこちらが受け返すものだ、などというのは、オランダ人同士の会話では皆無である。常識をここまで覆した非常識があったということを悟った出来事であった。
親しい家族内でもこの調子だからして、赤の他人と会話を交わすともなれば、更なる覚悟が必要となる。オランダ人は概して相手の言い分を絶対に聞かない。わが意見こそ正当だと、限りなくゴリ押しをする。彼らにとって、自分の声は神の声。従って、オランダ人を説得したり、言い合いをして打ち負かすことはまず不可能なので、避けるか逃げるかをしたほうが無難、といえよう。
そこで、オランダ人である配偶者に尋ねてみた。
なぜ、オランダ人は人の話を聞かず、自分の意見ばっかり述べているのか? と。
「沈黙しているってことは、この国では隠し事をしていることに通じるからさ」
つまり、多くの人と一緒にいる場において沈黙を守ったり、意見も述べられないような人というのは、”隠し事の多い、疚しい人物”と見なされるのだそうである。
かつて長崎の出島に出入りしていた蘭学者だかが、実際にオランダ人たちが喋りあっているその様子を目の当たりにした際、その騒がしさにたまげたそうだが、それも然り、かもしれない。
ただやたらと耳障りな言葉を、大声で怒鳴りあっているに過ぎない、と江戸時代の日本人が評していたことを、平成に生きる私も、全く同じに感じているからである。
教訓・オランダでは、沈黙とは、あくまでも禁。
≪澤野 禮子 (さわの れいこ)/プロフィール≫
フリーライター。日本とは何もかもが正反対、といわれる国オランダに住み、早12年。水を得た魚、とまではいかなくとも、エサを得て、この国を自由に泳ぎまわっている。