年に一度のご馳走、パロロ (サモア)
2008.04.10 Thursday | by chikyumaruz
文・写真:椰子ノ木やほい(アメリカ合衆国・ミシガン州在住)
「え〜こんなもの食べるの〜?」と思わず声をあげた。
サモアに住んでいたころ、大家の息子が、「おいしいよ!」と差し出してくれたのは、南海の珍味と言われる“パロロ”だった。緑色と茶色の混ざったイトミミズのような姿は、どう見ても人間が食べるものというよりは、釣に使う餌のようだ。しかしこれがサモア人の間では、年に一度だけ味わえるご馳走だという。
ほんのり磯の香りがする。おそるおそる、口にしてみると、うっすら塩味、海の味。食感としては、トロリといったところ。姿形がグロテスクなので味より見た目で気持ち悪い気がしてしまうが、熱々ご飯にイカの塩辛が大好きという人なら、食べられないことはない。いや、「結構イケる」と言えなくもない。
しかし、このパロロ、釣り餌に見えるのも無理はない。生物学的にも、ミミズやゴカイの仲間で、環形動物門多毛網イソメ科の生き物だそうだ。普段はサンゴ礁の細い穴の中に生息しているが、1年のうちの10月か11月あたりの特定の日にだけ生殖活動のために海中を浮遊する不思議な生物なのだ。またその時期は月の満ち欠けや海水の温度などが微妙に影響するため収穫できる確実なエックスデーを知ることは難しいらしい。
実は、私もサモアで暮らした頃に一度だけ、パロロ狩りを体験した。とは言うものの、現れるはずのパロロはその日、浮遊しなかったため、正確には、パロロ狩りは未遂に終わった。しかし、私はこの日、すくい網を手にした集団が、夜明け間近の漆黒の海にゾロゾロと入って行くという、異様としか言いようのない光景を見た。南海の珍味、パロロ収穫にかけるサモア人の意気込みがスゴイことを実感した。
考えてみれば、生物学的に云々ということなど、昔のサモア人は知る由もなかったはず。太古の昔から、珊瑚礁近くの浜に住む人々が生活する中で、パロロの存在を見つけ、食べてみたらおいしかった。以来、毎年エックスデーを予想して、年に一度のご馳走を味わってきたのにちがいない。世界で環境破壊が進むなか、いつまでもサモアの海で神秘の生き物、パロロが浮遊し、年に一度のご馳走が楽しめることを願っている。
≪椰子ノ木やほい/プロフィール≫
1997年より2001年まで南太平洋の小国サモアに在住。現在は五大湖に囲まれた、米国・ミシガン州在住。新鮮な魚介類が、安く簡単に手に入ったサモア時代と比べると、魚料理を食べるチャンスがほとんどない毎日。湖はあれど海は遠い。ミシガン人は海の幸を好んで食べないためか、新鮮な魚介類を売る店はない。あ〜たまには新鮮なお刺身が食べたい!